院長による講演資料
胃がん発見の為の胃カメラ検査の有用性

 

ヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)感染症による慢性胃炎は胃がん発症のリスク(危険因子)と言われています。

これを踏まえた胃がん検診のあり方や現在の胃がん検診の問題点をご説明致します。

消化器がん検診学会全国集計によると胃がん検診の現状は、胃X線検査では、要精査率(バリウム検査を受けて異常があった方)が9.05%、陽性反応的中率(異常があった中で胃カメラ検査を受けて胃がんなど疾患があった方)が1.1%となっています。

つまり約99%は、胃カメラ検査を受けたけれど、病気はなかったということになり、もっと胃がんの発見のために、効率のいい考え方はないのだろうか?という疑問が生じます。

また、専門家の最近の研究で、ピロリ菌は胃がんの確実な発がん因子だとされています。

最近では血清ペプシノゲン法とピロリ菌抗体検査との組み合わせの胃がん検診も広く行われており有効性が示されています。



 

最近の胃X線検査の画像デジタル化により診断精度が向上して、ピロリ菌感染症によって生じる慢性胃炎による胃の粘膜の変化がかなり正確に診断が可能です。



 

例えば胃X線検査で胃の粘膜の所見より慢性胃炎の強さや範囲の進行度を、軽い方から重い方へ3段階に分類します。(grade1からgrade3へ分類)



 

そこで、胃がん検診で、胃がんが発見されたグループと、胃がんでないグループに分けて、慢性胃炎の有無や程度を比較しました。
今回提示したデータは患者–対照研究という研究スタイルです。オッズ比で疾患のリスクを表示します。



 

一般的に胃がんの検査では、現状の医療では胃カメラ検査が一番の精密検査と位置付けられています。今回の胃X線検査と胃カメラ検査の所見の比較です。両者の胃の粘膜つまり慢性胃炎の診断は90%近く一致しました。

一方で局所所見、つまり、胃のどの場所にがんが存在するか、という診断の一致率は、75%程でした。
つまり胃X線検査だと4例に1例はがんの存在診断が困難だということになります。
すなはち胃X線検査で異常があったので胃カメラ検査を行ったら他の場所にがんがあったと言うことです。



 

また、胃がんには、がんの進行の速さの違いにより、進行が比較的遅い(決して性質がいいという訳ではありません。通常のがんです。詳細は別項目でご説明します。)分化型がんと進行が早い未分化型がんがあります。

今回の発見された胃がんでは60%強が分化型がんでした。

また75%は早期胃がんでした。更に肉眼的形態は75%は陥凹型(くぼんだ形)でした。今回の胃がん検診の受診者が毎年受診をしているかどうかは調査していませんが、約1/4の方は残念ながら進行胃がんで発見されています。



 

特に慢性胃炎の進行度は、性別、がんの存在部位別、組織型別とに関連性を認めました。



 

慢性胃炎の頻度は、胃がんグループでは97%で、非胃がんグループ(スライドでは対照)では55.6%でした。

明らかに胃がんグループの慢性胃炎の頻度が多く見られます。慢性胃炎の胃がん発症のリスクは非慢性胃炎の40.5倍となります(オッズ比40.5)。



 

慢性胃炎の頻度は、胃がんグループでは97%で、非胃がんグループ(スライドでは対照)では55.6%でした。

明らかに胃がんグループの慢性胃炎の頻度が多く見られます。慢性胃炎の胃がん発症のリスクは非慢性胃炎の40.5倍となります(オッズ比40.5)。



 

年齢的に30から40歳代のグループと50から60歳代のグループに分けると、前者のグループの慢性胃炎の胃がん発症のリスクは15.1倍で、後者のグループのリスクは57.7倍でありました。

つまり50歳代以上の方で慢性胃炎がある方は胃がん発症のリスクが高いことが考えられます。



 

以上のようなことから、胃がん発症のリスク(オッズ比)は、慢性胃炎の進行度が強くなる程に高くなり、また年代が高くなる程、リスクが高くなることが改めて示されました。

つまり、検診で、これまで’慢性胃炎’があります。
年齢が50歳代以上の方は胃がん検診は毎年お受けになられる。

そん際にはより精密な胃カメラでの検診が、胃がんの早期発見、早期治療につながっていきます。50歳未満の方も慢性胃炎がある方は同様に考えて下さい。



 

ところで、胃がんの組織型の違いにより、進行度の早さに違いがあることはお話しました。

進行が比較的遅いタイプの分化型胃がんは、慢性胃炎がより進行した状態から発生し、進行が早い未分化型がんは軽度の慢性胃炎からでも発生してくる。と言われています。



 

通常、慢性胃炎が進行すると胃の粘膜が萎縮してきますが、まず、胃の出口付近の幽門前庭部という部分から生じ、口側の方向に広がっていきます。

更に胃炎が進行すると胃の粘膜が腸の粘膜に変化してきます。つまり、慢性胃炎の進行度とは、grade1:前庭部優勢胃炎→grade2:汎胃炎→grade3:体部優勢胃炎へと進行していきます。

このような慢性胃炎の変化のなかで組織型別の胃がん発症の背景が構築されていきます。



 

胃がんの組織の違いは、その背景である慢性胃炎の進行度の違いで発生することが推測されます。

つまり組織型の違いにより、胃がん発症の部位も想定されるのではないかとの推測のもと、発見胃がんで検討してみました。



 

発見された胃がんの中で、分化型がんは57.4%で、未分化型がんは34%でした。

その内で早期がんの割合は、分化型がんは89.5%で、未分化がんは55.6%で、未分化がんの早期がんの発見率が低い傾向があります。



 

分化型がんの慢性胃炎は中等度~高度の頻度が多く、未分化型がんでは軽度~中等度頻度が多い傾向にありました。



 

少し難しいスライドですが、要するに分化型がんは慢性胃炎が進行した粘膜に発生しやすく、未分化型がんは胃の全体的に発生する傾向があることが確認されました。



 

grade1の軽度の慢性胃炎では未分化型がんの頻度が多く、粘膜が胃炎で変化した部位と未だ変化していない部位との境界部分に発生し易い傾向にありました。

一方、慢性胃炎が進行してくると、中等度では分化型がんは慢性胃炎に変化した粘膜や境界部分に発生し易く、未分化型がんは境界部分や慢性胃炎の変化していない領域に発生し易い傾向にありました。

更に進行し高度の慢性胃炎になると分化型がんが大部分で慢性胃炎が変化をした粘膜の部分に発生し易い傾向にありました。



 

軽度の慢性胃炎に胃がんが発生した例です。

胃X線検査では不明瞭でしたが、胃カメラ検査では進行がんです。最近、胃の粘膜の’鳥肌状の胃粘膜’という変化をしている場合は胃がんのリスクがあると言われています。

比較的若年の女性の方に見られる場合があります。ピロリ菌感染症との関連も言われていますので除菌をお勧めします。



 

高度の慢性胃炎に、発症した胃がんです。胃粘膜は腸上皮化生という腸の粘膜に変化しています。



 

慢性胃炎は軽度ですが、胃の噴門部という入り口付近に生じた陥凹型(くぼんだタイプ)の胃がんです。

胃X線検査ではわからず、胃カメラ検査で初めてわかりました。



 

慢性胃炎は軽度です。

胃炎の変化の乏しい胃体部という部分に小さな、未分化型がんを認めました。これも胃カメラ検査で指摘されました。



 

胃がんの組織型、慢性胃炎の進行度別にがんの存在部分に特徴があることが分かります。

また慢性萎縮性胃炎の進行度を評価した血清ペプシノゲンが胃がんのスクリーニングに有効ですが、軽度の胃炎でも、特に未分化型がんの発生も見られるので胃がん検診では画像検査の重要性が確認されました。



 

胃がん検診は、血液検査のペプシノゲンとピロリ菌抗体の組み合わせが有効ですが、他の上部消化管のがん、つまり食道がんや口頭部領域のがんは分かりませんので、がんのスクリーニングでは胃カメラ検査が重要です。



 

がん検診には、人間ドックのような任意型検診と呼ばれるものと、自治体が中心となって行う集団対象とした対策型検診がありますが、対策型検診は対象人数が多いので血液検査のピロリ菌抗体とペプシノゲン検査は非常に有効です。

しかしながらこの検査はあくまでもピロリ感染に伴った慢性胃炎に発症する胃がんに対してのみで、頻度は少ないですがピロリ菌感染症に関連のない胃がんや食道がんのスクリーニングは不可能ですので、形態学的な画像診断は不可欠です。
従って胃X線検査、更により正確性の高い胃カメラ検査をお勧めいたします。



 

二子玉川メディカルクリニック